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翻訳とローカリゼーションについての一考察

今回のブログでは、私が基本的に翻訳という概念をどう捉えているのかをテーマに書いてみました。

これは私の経験と本やいろいろな媒体で接したことがある情報を基にした認識ですが、一般の人たちの多くは、翻訳と英作文または英文和訳を混同しているのではないかと思います。

一般の人たちの多くは、翻訳というと、外国語で書かれたものについて、その原文の一語一句をもらすことなく、日本語と一対一の対応関係で日本語に置き換えるものだと思っているのではないかと思うのです。ある英語なり日本語なりの語がある時に、それに一対一で対応した日本語や英語が存在し、その語にぴったりと寄り添うように一対一で置き換えるという幻想を抱いているということです。

それは英作文または英文和訳であって、翻訳ではありません。翻訳というのは、原文に使われている表現に全く表現を付け足すことなく、また全く表現を削ることなく、そのまま鏡に映して反転させたかのように言葉を置き換えるというものではありません。

翻訳というのは、書かれたテクストの文脈やその裏にある様々な意図を考慮した上で、想定読者やターゲットとなる市場に向けてより自然で、ふさわしい表現に移し替える異文化間コミュニケーションの技法です。異なる文化間のコミュニケーションをより円滑にするために必要な場合には、原文の表現をあえて削ったり、意図的に言葉を付け加えたり、微妙に表現を変えたりすることが求められます。

これは内容を不当に歪めたり、原文を軽視したりするということではなく、より円滑で適切な異文化間コミュニケーションを促すことを狙いとしたコミュニケーション戦略なのです。

外国語をある程度知っている一般の方の中には、翻訳者や通訳者が表面的に見ると原文通りに訳出していないと感じて、それに注文を付けたくなるという方もいることでしょう。もちろん、翻訳者や通訳者が原文の内容を正確に訳した上で、あえてそれに異議を申し立てたいということが、ここでは話の前提です。(原文の内容を完全に誤解した誤訳であれば、全く別の問題になりますが。)

そういう場合、異文化間コミュニケーションの橋渡し役を本業にしている翻訳者や通訳者は何らかの意図があってそうしているのであって、表面的に見ただけではわからない繊細な判断が込められています。そこには、必ずその翻訳なり通訳なりの案件に絡んだ特定の事情や文脈における判断が隠れています。そういうことを考えずに、単純に訳出された表現だけを見ても、わからない部分があるのです。

この翻訳の本質を物語る非常に示唆に富む例があります。それは、『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか? 世界で売れる商品の異文化対応力』という本の内容です。

IT翻訳者の西野竜太郎さんがブログでこの本について紹介していますが、マルちゃんのカップめんがなぜ米国やメキシコの人たちに受け入れられているかについて、ポイントをわかりやすく説明されています。西野さんは、次のように書いています。

即ち、元来、地域文化と製品文化に乖離はなかった。商品が地域の外で売られたり、あるいは人が移動して商品をもちこむことによって、その先の土地でローカリゼーションが要望されることになった。(p.201)

つまり、製品が海外に出る際には「地域文化」と「製品文化」の乖離が発生するため、そこにローカリゼーションが必要だということです。例えば本書のタイトルにもなっているマルちゃんのカップめんは、アメリカやメキシコではラーメンというより「スープ」と認識されているため、スープを全部飲むそうです。そのため味を薄くしているとのことです。


上記の記述の中で最も重要なポイントは、米国やメキシコの人たちはマルちゃんのカップめんをラーメンというより「スープ」と認識しているために、現地の人たちの好みに合わせて味を薄目に調整しているというところです。そして、この概念を「ローカリゼーション」という言葉で表現しています。

「ローカリゼーション」というのは、ある特定の地域の文化や習慣といったものに合わせて、事物の形態や表現、提供の仕方などを最適化するということです。これは、いろいろな分野に当てはまることであり、それを言語に応用したものが、翻訳や通訳になります。料理に応用することもできますし、建築に応用することもできます。上記の例のように商品の味に注目したマーケティングにも応用できます。

翻訳や通訳というのは、ローカリゼーションという概念を異なる言語と文化の間におけるコミュニケーションに応用したものであり、ローカリゼーションという上位概念の中に属する一つのタイプと言うことができます。そのため、ローカリゼーションによるコミュニケーション戦略が翻訳や通訳の要となるものであり、その戦略に合わせて臨機応変に言葉や表現方法を使い分けることが王道です。

それゆえ、例えば、日本人を相手にカリフォルニアの面積や広さを表す時には、日本列島の面積をわずかに上回るくらいの広さといった表現をした方が日本人にとって感覚的にわかりやすかったり、米国人を相手にオーストラリアの面積を説明する時には、米国合衆国のうちの48州を合わせた面積をわずかに下回るくらいの広さと言った方が感覚的に伝わりやすかったりするということがあります。

こういうことがローカリゼーションであり、それを言葉で表現したのが翻訳や通訳になります。

以上が、私の翻訳に対する基本的な認識です。もちろん、ケース・バイ・ケースでいろいろなパターンがあるので、時と場合によって具体的な使い分けが必要であり、私が上に書いたことが常に当てはまるわけではありません。が、翻訳を英作文や英文和訳と混同しないための基本的な違いに注目して書いてみました。

テーマ : 英語
ジャンル : 学問・文化・芸術

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プロフィール

平井和也

Author:平井和也
KH翻訳事務所代表。主に人文科学・社会科学分野の日英・英日翻訳を中心にしており、行政翻訳専攻です。好奇心旺盛な本好きです。異文化間コミュニケーション・サポーター。日本翻訳者協会(JAT)会員。海外ニュースライター。

特に政治、経済、国際情勢、行政、ジャーナリズムといった時事的なテーマが得意です。

主な翻訳実績として、東大や一橋大学などの教授の書いた学術文書の英訳、2006年サッカーW杯ドイツ大会の翻訳プロジェクトや防衛省・法務省などの政府系文書、政府高官のパーティースピーチ文書、国際会議関連文書、シンクタンクの報告書・論考、英字新聞『ジャパン・タイムズ』寄稿記事の和訳などの翻訳経験があります。

趣味:読書、語学。

ブログを読んでいただいて、ご意見・ご感想などございましたら、お気軽に以下のアドレスまでメールをいただければと思います。

curiositykh@world.odn.ne.jp

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