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言語プラグマティズム

最近、日本企業の国際的なコミュニケーション対策として楽天ユニクロの社内英語公用語化が話題になっていますが、今回はこのテーマについて私が考えていることを書いてみたいと思います。

私がこのテーマについて考える時、基本的なポイントとして念頭に置いているのが、国際語としての英語という概念です。

もうずっと以前のことになりますが、私は大学時代に英語学特講という授業で、アジアの英語を中心とした英語の国際化(World Englishes)について、いろいろな話を聴きました。

講義のポイントとしては、要するに、現在の世界では、英語はそれを母国語としている米国人や英国人だけではなく、アジアやアフリカ、ヨーロッパなど世界中の人たちによって話されており、英語が国際的な共通語として広く使われているということです。

この話を聴いたのは、もう20年近く前のことであり、それからも世界の政治や経済、ビジネスのグローバリゼーションは一段と進み、世界の共通語としての英語の位置づけは基本的に変わっていないと思います。

そういう状況の中で、今頃になって日本企業が英語を社内公用語にするという議論が出てくるのは、実にタイミングとしては遅いという印象を否めません。

私は、日本企業が英語を社内の公用語にすることは悪いことではないと思いますが、絶対にそうすべきだとも思いません。そこまで原理主義的には考えていません。

その必要性を強く感じた企業が、自主的な判断の下に行うのであれば、それはそれで良いことだと思います。

ただ、その時に、英語コンプレックスを持っている典型的な日本人の傾向が出やすいので、そのことについて私が思うことを、以下に書いておきたいと思います。

日本人の英語学習でよく現われやすい傾向として、間違いを恐れる完璧主義的な考え方があります。

例えば、日経ビジネスオンラインの記事に、次のような記述があります。

間違えるのが嫌だから話したくない、恥ずかしいから話したくないという人は多い。発音や文法の正確さにこだわるのをやめて、何を伝えたいのか、何をしたいのかにフォーカスするよう、意識を変えてもらう必要があります。


私は、英語に対してこういう完璧主義的な姿勢を持つ日本人の傾向に、少々不思議なものを感じます。

英語をはじめとした語学の専門的な知識を仕事で必要としている翻訳者や通訳者が、文法や語法の正確さにこだわる必要があるのは当然のことです。そういうことを大事にしない翻訳者や通訳者は失格でしょう。

しかし、英語を専門としていないビジネスマンが、仕事のコミュニケーション上の必要性から英語を覚える場合、そこまで正確さや語法的な美しさに囚われる必要はないと思うのです。

外国語を素人として学ぶのですから、間違って当たり前です。むしろ、間違わない方がおかしいくらいです。

私はそういう人たちに言いたい。堂々と間違えろ、と。

先ほど私が大学時代に授業でアジアの英語について学んだという話をしましたが、例えば、その典型的な例がシンガポールのシングリッシュ(Singlish)です。

シンガポールの人々は、自分たちにとって使いやすいように英語を使っており、必ずしも米国人や英国人のような英語を使わなければいけないというきっちりとした考え方で英語を使っているわけではありません。その表現や語法は、米国人や英国人の文法のルールからは逸脱していますが、そっちの方が使いやすく、コミュニケーションを取りやすいから、そういう逸脱表現をあえて使っているのです。

「世界が求める英語力について」という記事の中に、次のような記述があります。

英語をひとつの言語として捉える人よりは、コミュケーションの道具として割り切って使用する人が圧倒的に増えた。英文学者からしてみれば由々しき事態かもしれないし、英語が持つ言語的な豊かさが伝わらないのは残念だが、すでに世界では英語と言えば、「外国人とコミュケーションを取る手段」として位置づけられている。

だから、「日本語訛り」「シンガポール訛り」「スコットランド訛り」云々の話を聞くと、「いまさら?」と思う。

今、求められている英語は「コミュケーションを成立出来る英語力」であり、完璧な英語ではない。

「コミュケーションを成立させる一番の要素は何か?」と問われれば、それは相手をいかに自分の土俵に引き込むかということだ。相手が自分に興味を持たなければ会話は成立させられない。当たり前のことだが、日本人の場合は英語の勉強ばかりに特化し過ぎて、このことを根本的に理解していない人たちが多いように思える。

語弊を怖れずに言えば、「英語なんて通じればいい」のであって、最終的な成果に繋げるためには、語学力よりも「個人の質」が問われる。そのことだけは、今後は肝に銘じておくべきだ。


前記の日経ビジネスオンラインの記事にも、次のような記述があります。

ビジネスでは、美しい英語を話せる人が勝つわけではないんです。新興国に参入し、他のアジア圏の人と英語でコミュニケーションをとるシーンが増える中、『ネイティブの正しい発音なら理解できる』というだけでは、ビジネスは成立しません」


要は、あるビジネス上の特定の目的のためのコミュニケーションの道具として英語を使うのであり、その意味において、本来の目的を果たすことが〈主〉で、英語はその後にくる〈従〉のものです。

英語をコミュニケーションの道具として使うというプラグマチックな割り切りがポイントです。私は個人的に、こういう考え方を言語プラグマティズムと呼んでいます。

こういう例の典型が、海外のチームに移籍して活動するスポーツ選手です。彼らは、海外で競技をすることが目的であり、それぞれの国の言語を覚えるのは、そのための手段になります。

ある明確な目的の手段として言語習得を位置づけるというアプローチは、外国語習得のスピードを速める有効な方法だと思います。人間は必要に迫られた時、最も何かを身につけやすくなり、フォーカスがはっきりするからです。

似たような例は、挙げればたくさんあります。

例えば、ブリヂストンで14年間にわたってF1へのタイヤ供給を責任者として統括していた浜島裕英さんは、著書『F1 戦略の方程式』の中で、国際コミュニケーションについて、次のように書いています。

この程度の英語力だけど通じるよね、というぐらいの度胸で、積極的に会話をするほうが相手も信用してくれます。英語がうまくないと思っても何も話そうとしないほうがデメリットは大きいです。

大事なことは「伝えようとする気持ち」です。"This is a pen."の延長線から始めるぐらいの気持ちで十分。もしそれで通じなければ、今度は別の構文で攻めてみようとする「パッション」が大事です。


これらの記述から言えるのは、正しくて美しい英語を話さなければいけないという強迫観念に囚われる必要はないということです。(もちろん、ケース・バイ・ケースですが。)

もちろん、正確で美しい英語を身につけるに越したことはありませんが、そこばかりに囚われていては、肝心のコミュニケーションを図るというポイントが抜け落ちてしまうということです。

20年くらい前に読んだ英語の元同時通訳者である松本道弘氏の本の中に、次のようなエピソードが紹介されていたのを覚えています。

松本氏がマレーシア(筆者:国名は正確かどうか記憶に自信がありません)を訪れた時、現地のタクシー運転手が高台から下に見えるホテルについて話していると、「見た目は近く見えるけれど、実際に歩いてみると距離がある」ということを表す際に、“Seeing is near, but walking is far.”と言ったという話です。

この表現は、正しい英語では“It’s farther than it looks.”となりますが、件のタクシー運転手が使った英語から何が言いたいのかは感覚的に十分に伝わってきます。

これぞ言語プラグマティズムを絵に描いたような表現です。

たしか、私が記憶している限りでは、松本氏はこういうアクロバチックな英語を「カンフー英語」と呼んでいたように思います。

ちなみに、私は学生時代、松本氏の本を本屋や古本屋で見つけると、端から買って読み漁ったものです。

テーマ : 英語トレーニング
ジャンル : 趣味・実用

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プロフィール

平井和也

Author:平井和也
KH翻訳事務所代表。主に人文科学・社会科学分野の日英・英日翻訳を中心にしており、行政翻訳専攻です。好奇心旺盛な本好きです。異文化間コミュニケーション・サポーター。日本翻訳者協会(JAT)会員。海外ニュースライター。

特に政治、経済、国際情勢、行政、ジャーナリズムといった時事的なテーマが得意です。

主な翻訳実績として、東大や一橋大学などの教授の書いた学術文書の英訳、2006年サッカーW杯ドイツ大会の翻訳プロジェクトや防衛省・法務省などの政府系文書、政府高官のパーティースピーチ文書、国際会議関連文書、シンクタンクの報告書・論考、英字新聞『ジャパン・タイムズ』寄稿記事の和訳などの翻訳経験があります。

趣味:読書、語学。

ブログを読んでいただいて、ご意見・ご感想などございましたら、お気軽に以下のアドレスまでメールをいただければと思います。

curiositykh@world.odn.ne.jp

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