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相談され役

今回は、私が目指す翻訳者像について書きたいと思います。

私は、翻訳者というのはコミュニケーションをより円滑に進めていく手助けをする上で、伝達内容をわかりやすく表現するために、書き手の意図や読み手側の受け取りやすさに配慮して言葉の味つけをするプロでなければいけないと考えています。

料理人が、料理を食べる人のことを考えて、例えば日本人に合わせた味つけをしたり、英国人に合わせた味つけをしたりするのと同じです。

一例として、私が前回のブログで取り上げた米軍のイラク撤退に関する論稿の内容をまとめた文章についてちょっと説明します。

この中には、中東地域の政党名や組織名、政治家の名前、地名といった固有名詞がいくつも出てきます。

私はそういう名称を日本語で表現する際、読み手のことを考慮し、適宜工夫しました。

例えば、サドルという人物についての記述には、「指導者ムクタダ・サドル師率いるイラクのシーア派最大の反米勢力」というふうに、キルクーク州という地名の記述には、「アラブ人とクルド人らが帰属を争う北部キルクーク州」というふうに、日本人読者にとってわかりやすいように補足説明を加えて表現しました。

私のブログを読んでくれる主な想定読者は、日本人であり、イラク情勢や国際政治に関する専門家ではない一般の人たちです。(もちろん、専門家の方々にも見ていただければ嬉しく思いますが。)

そういう人たちにとって内容をよりわかりやすいものにするために、こういう「味つけ」を意図的にしたのです。

補足説明を加えることによって、各勢力の対立構造や現地の事情が伝わりやすくなります。

世の中には海外在住の経験を持ち、英語の運用能力が高い人も多くいると思います。

が、英語がそれなりにできる素人と、職業翻訳者の間には明確な差があります。また、プロのコミュニケーターなら、そうでなければなりません。

英語がそこそこできる素人が訳した文章というのは、言葉そのものばかりを見ていて、言葉の向こう側を見ていないケースが多いのではないかと思います。適切な味つけができていないのです。

塩をかけるべきところに塩をかけていなかったり、薄味にすべきところを濃い味にしたりといった感じです。出しを取らずに味噌汁を作ったら、どんな味気ない味になるかを想像してみて下さい。

以前、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』にライティングデザイナーである内原智史氏が出演し、その中で語られていた内容を聴いた時、非常に感銘を受けたことを覚えています。

内原さんは番組の中で、建物の照明を考える時、重要なのは建物を照らすことではなく「本質」を照らすことだ、と言っていました。

この「本質」というのは、建物とそれを使う人間との関係性に光を当てるということです。

例えば、内原さんが羽田空港第二旅客ターミナルのライティングデザインをした際、緊張とリラックスのメリハリを意識したそうです。

チェックインのセキュリティゾーンを通る時には緊張しやすくなるので、少し青白っぽい光で照らすことでキリッとした雰囲気を演出し、その代わりに、セキュリティゾーンを通過した先にある出発ラウンジの空間は、暖かい光にして、緊張とリラックスのメリハリをつけたというのです。

私はこの話を聴いた時、まさにプロだと思いました。

おそらく、空港利用者の多くがそんなことには気づいていないだろうと思います。そこがプロのプロたる所以だと思うのです。

つまり、綿密な配慮に基づいた意図があるにもかかわらず、利用者には気づかないくらい自然な表現になっているのです。

翻訳者の訳文にも当てはまると思います。

文章の書き手の意図や想定読者を考慮した上で、適切な「味つけ」を施すことによって、自然なコミュニケーションの流れを演出するのです。

ライティングデザイナーが人と建物の関係性に焦点を当てるとしたら、翻訳者は文章(とその書き手)と読み手の関係性に焦点を当てるコミュニケーションデザイナーです。

私は翻訳者としての自分のことを、「異文化間コミュニケーション・サポーター」と表現しています。

実は、この表現には二つの意味を込めています。

一つは、文字通り、日本語と英語による異文化間の意思伝達を円滑にする手助けをするという意味です。

そしてもう一つは、私が個人的に人の話を聴いたり、人の相談にのったりするのが好きな性格であり、「相談され役」として人をサポートするという意味です。

私はリーダーというよりもリーダーを支える参謀向きのタイプだという自己認識を持っています。

つい先日も、知人の女性からある相談を受けましたが、その話が終わった時、その女性から、平井さんが「相談され役」だということがよくわかったと言ってもらえました。

私が目指す理想の翻訳者像は、コンサルタントやカウンセラーの要素も兼ね備えた付加価値の高いコミュニケーションデザイナーです。

そのためには、言語以外の様々な分野についての知識も身につけ、幅広い経験も積み、弛みない自己研鑽に励んでいく必要がある、と心が引き締まります。

その分、依頼料金はお高くなりますが。笑

テーマ : 意見・つぶやき
ジャンル : ビジネス

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プロフィール

平井和也

Author:平井和也
KH翻訳事務所代表。主に人文科学・社会科学分野の日英・英日翻訳を中心にしており、行政翻訳専攻です。好奇心旺盛な本好きです。異文化間コミュニケーション・サポーター。日本翻訳者協会(JAT)会員。海外ニュースライター。

特に政治、経済、国際情勢、行政、ジャーナリズムといった時事的なテーマが得意です。

主な翻訳実績として、東大や一橋大学などの教授の書いた学術文書の英訳、2006年サッカーW杯ドイツ大会の翻訳プロジェクトや防衛省・法務省などの政府系文書、政府高官のパーティースピーチ文書、国際会議関連文書、シンクタンクの報告書・論考、英字新聞『ジャパン・タイムズ』寄稿記事の和訳などの翻訳経験があります。

趣味:読書、語学。

ブログを読んでいただいて、ご意見・ご感想などございましたら、お気軽に以下のアドレスまでメールをいただければと思います。

curiositykh@world.odn.ne.jp

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