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翻訳雑感

今回は翻訳について、思うままに書きたいと思います。少々長文ですが、興味のある方は読んでいただければありがたいです。

私は翻訳者として、主に人文科学や社会科学分野のビジネス関連文書や学術文書の日英・英日翻訳を専門としています。

翻訳というのは、原文の文書に書かれている内容をいかに的確な言葉で表すかが問われます。そのときに、単に表面的な字面ではなく、言葉が表している内容をよく考え、不明な点は詳しく調べることが必要です。今はネットが発達しているので、調べ物をするには非常に便利です。

ときには、調べているうちに、原文の書き間違えに気づいたりすることもあります。

例えば、以前歴史に関する社会調査論文を英訳しているとき、統計用語で「リマックス回転」という言葉が出てきました。この言葉についてネットで調べてみましたが、なかなか英訳語が見つかりませんでした。そして、いくつかのサイトを調べていくと、「バリマックス回転」という言葉にぶつかりました。

これを見て、原文の表現が書き間違えであることがわかりました。結局、英訳語はvarimax rotationでした。

翻訳では、文書にいろいろな分野に関する内容が書かれているので、知識や情報は非常に重要な要素です。知識を持っているために、翻訳する文書の内容を難なく理解できることもあれば、逆に内容についての知識が乏しいために、理解に苦しむこともあります。

語学能力だけあっても、内容に関する知識や情報を持っていなければ、的確な訳語を選択することができません。また、知識不足によって内容を深く理解できないために、的外れな訳になってしまうなんてケースもありえます。

各分野や業界によって、標準的に使われている表現や用語には違いがあります。金融業界には金融業界独特の言葉が、機械産業にはその業界ならではの部品の呼び名や専門用語といったものがあるものです。各分野に合った訳語を選択するためには、その分野の知識や情報が必要です。もちろん、人間なので、全ての分野に精通している人などいません。その分野に詳しくなければ、ネットを中心に本などの媒体を使って最大限のリサーチをします。

今では翻訳者が専門に利用できるメーリングリストやオンラインフォーラムもあるので、そういうルートを使って翻訳者同士で相談し合うこともできます。

私は、もともと本が好きで好奇心旺盛な性格なので、その点は翻訳に役立っています。基本的にあらゆる分野の本を読むので、日頃から知識構築と情報収集には力を入れています。

ここ数年で特に好んで読んでいるのが佐藤優さんの著作です。同氏は元外務省の情報分析官で、政治や外交の裏にも表にも通暁したインテリジェンス専門家なので、その著作を通じて、政治や国際情勢といったジャーナリスティックな分野の知識や情報を得るのに役立っています。

また、今では海外メディアの記事もオンラインで簡単にアクセスできるので、英語情報を得るのにも困りません。International Herald TribuneでもReuterでも気軽にアクセスできます。特に、海外メディアの英語記事は、英語と情報の両方を一度に得ることができるので一石二鳥です。

翻訳において知識や情報、調査力が重要であることについて書きましたが、私自身、実務や語学学校の翻訳者養成コースでの訓練でそれを強く実感しています。

私は以前、英字新聞『デイリーヨミウリ』の隔週日英翻訳コンテストで優秀賞に選んでいただいたことがあります。非常に恐縮ですが、以下にその訳例を紹介させていただきます。(2005年10月4日付『デイリーヨミウリ』掲載)

【原文】
抑止力の維持と負担の軽減――。在日米軍再編は、相反する二つの目標の両立を追及している。米軍にとって、東アジアを含む「不安定の弧」へにらみを利かす沖縄は戦略的重要性は高い。しかし、騒音や事故の危険性にさらされる周辺住民を置き去りにした日米安保体制はありえない。

海兵隊普天間飛行場返還の日米合意から既に9年。動かない飛行場が問題の難しさを象徴している。(読売新聞東京本社版9月19日付朝刊より)

【英訳文】
The realignment of the U.S. bases stationed in Japan is intended to achieve the two contradictory goals of maintaining their deterrent power and reducing the burden on the people of Okinawa. Okinawa’s location is strategically important to the United States because it gives the U.S. forces the advantage of exerting pressure on “arc of instability,” a stretch of volatile areas, including East Asia.

The bilateral security alliance will definitely remain a focus of criticism, however, as long as it leaves local residents concerned about noise problems and the dangers of accidents.

Nine years have passed since the governments of Japanese Prime Minister Ryutaro Hashimoto and U.S. President Bill Clinton agreed on the relocation of the U.S. Marine Corps Futenma Air Station in the December 1996 Final Report of the Special Action Committee on Okinawa (SACO). The air base, which still exists in the same residential area as at that time, epitomizes the difficulty of solving Okinawa-related problems.

私はジャーナリスティックなテーマには特に興味があるので、こういう分野は特に得意としています。日頃からの情報収集に加えて、語学学校で同じテーマを扱った文書を訳したことがあったので、原文の内容を理解するのには苦労しませんでした。

このコンテスト結果に関する講評を書いた永田和男という記者は、この文脈で例えば「負担」という言葉が表している内容について書いています。この文脈では、「負担」とは基地周辺の住民が訴えてきた様々な問題全般を指すものです。が、応募者の中には「日本政府の財政負担」などと解釈していた人もいたそうです。

これなど、在日米軍基地の問題に関する基本的な背景知識や情報を持っていれば普通はしない間違えです。

また、このコンテストではひとつ面白いことがありました。それは、原文に出てくる「不安定の弧(コ)」という言葉に関するものです。実は、課題文として最初に公表された原文はこの言葉を「不安定の狐(キツネ)」と間違って書いていたのです。

講評の中では、応募者の大半がその間違えに気づき、正確に訳していたことに安心し、また感心したと書かれています。

これなど、原文の内容を正確に理解し、必要な場合には徹底的にリサーチする必要があることを如実に表している好例だと思います。

翻訳実務ではいろいろな案件がありますが、私が経験した中で最もエキサイティングで面白かったのが、2006年のFIFAドイツワールドカップの和訳プロジェクトでした。

ニューヨークの翻訳会社がプロジェクトをまとめ、Skypeでバルセロナとニューヨーク、日本を結んでプロジェクト用のフリーソフトを使って翻訳を進めました。

それぞれの記事には制限時間が決まっていて、訳し終わった段階で規定の手順に従って記事をアップロードするという流れでした。

訳し終わった記事はFIFAの公式サイトに掲載され、世界中の人の目に触れるということで、ある種のお祭りのような感覚がありました。

ウェブ掲載の時間制限があるだけに、翻訳作業も時間との勝負で、まるでピッチ上でプレーしている選手と一体になっているような気分でした。

テーマ : 伝えたい事
ジャンル : ブログ

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プロフィール

平井和也

Author:平井和也
KH翻訳事務所代表。主に人文科学・社会科学分野の日英・英日翻訳を中心にしており、行政翻訳専攻です。好奇心旺盛な本好きです。異文化間コミュニケーション・サポーター。日本翻訳者協会(JAT)会員。海外ニュースライター。

特に政治、経済、国際情勢、行政、ジャーナリズムといった時事的なテーマが得意です。

主な翻訳実績として、東大や一橋大学などの教授の書いた学術文書の英訳、2006年サッカーW杯ドイツ大会の翻訳プロジェクトや防衛省・法務省などの政府系文書、政府高官のパーティースピーチ文書、国際会議関連文書、シンクタンクの報告書・論考、英字新聞『ジャパン・タイムズ』寄稿記事の和訳などの翻訳経験があります。

趣味:読書、語学。

ブログを読んでいただいて、ご意見・ご感想などございましたら、お気軽に以下のアドレスまでメールをいただければと思います。

curiositykh@world.odn.ne.jp

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