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JTF翻訳祭に参加して

今月28日に市ヶ谷で開催されたJTF翻訳祭に参加してきましたので、今回はその感想をまとめてみました。

全部で4つのセッションに参加し、その中でも関根マイクさんの行動経済学から見た翻訳者論は非常にためになる内容でしたが、この内容については多くの翻訳者が既にブログに紹介しているので、私はあえて別のテーマについてまとめてみました。

実際、それは非常にためになる内容であり、是非ブログに書きたいと思っていたのです。私が選んだのは、「日英翻訳のブラッシュアップ~翻訳業務における英語ネイティブチェックの必要性~」と題したクリムゾンインタラクティブの発表です。

特に同社で20年以上にわたって翻訳の品質管理を担当されている奥田秀樹さんのお話は、異文化間コミュニケーションの橋渡しである翻訳の本質をわかりやすく説明した非常にすぐれた内容であり、私にとって圧巻でした。

奥田さんは普段は米国に住んでいますが、この日はたまたま翻訳祭に合わせて帰日されたそうです。

まず、発表の最初に奥田さんは、英語ネイティブチェックの必要性などという当たり前の話をいまさら持ち出すのはなぜかという問いから始めました。

クリムゾンでは、各分野の専門知識を持った英語ネイティブを在宅も含めて400人規模で確保しており、二重のチェックが行われているといいます。日本人翻訳者と英語ネイティブチェッカーがオンラインのフォーラムを通じて議論を重ねるシステムが使われており、その議論にはクライアントも参加できるそうです。

翻訳者・チェッカー・校正者の組み合わせは全部で4種類ありますが、その中でも英語ネイティブ翻訳者-日本人チェッカー-英語ネイティブ校正者と、日本人翻訳者-英語ネイティブチェッカー-英語ネイティブ校正者という組み合わせが最も多いといいます。

クリムゾンでは、日本人と英語ネイティブの役割分担を明確にしています。それは、日本人がどんなに海外に長く住んで英語を身につけても、英語ネイティブの感覚にはなれないという厳然たる事実に基づいた判断によるということです。

日本人翻訳者はあくまでもAccuracyを重視して原文に忠実に翻訳することが役割とされており、それをもとにして英語ネイティブがさらに英文をブラッシュアップしていくというチームワークで成り立っているわけです。

私が特に興味を持ったのは、ここからです。

奥田さんがこれまでの経験からわかったことして言えるのは、英語には、Japanese English、Bilingual English、Native Englishの3種類があるということです。

ここでいうJapanese Englishというのは、Accuracyを追求した英語という意味です。Bilingual Englishというのは、AccuracyとFluencyを追求したものです。最後のNative Englishというのは、ここでは最も高度なカテゴリーになっています。

具体的な例を挙げれば、次のようになります。

「お客様は神様です」の英訳

The customer is God. (Japanese English)

The customer is king. (Bilingual English)

The customer is always right. (Native English)

これは、別の言い方をすれば、直訳(metaphrase)、意訳(paraphrase)、創訳(transcreation)と言い換えることができます。

最高度のNative Englishとは、この最後の創訳(transcreation)を実現することを目的としたものであり、これこそまさに異文化間コミュニケーションの橋渡しそのものだと言えると思います。

日本語の字面に忠実にAccuracyを重視しただけでは、英語ネイティブの発想では理解できない内容になってしまうところを、AccuracyとFluencyからさらに昇華させて創訳(transcreation)を完成させるわけです。

奥田さんは、この日本語の発想と英語ネイティブの発想の違いをわかりやすく説明したいくつかの具体例を挙げていましたが、これは実に興味深く、英語の論理と発想の本質に肉迫するものでした。

その中でも、特に面白かったのが、奥田さんの息子さんが10歳の時に経験した話でした。息子さんが新幹線のトイレに入った時のことです。トイレの中に書かれていた英語の注意書きを見て、その息子さんは驚いたそうです。それは、「トイレットペーパー以外のものは流さないで下さい」と日本語で書かれていて、その下に英語で“Please do not flush anything except toilet paper.”と書かれていたのを見たからです。

普段米国で暮らしている息子さんは、この英語を見た時、驚いてどうしたらいいのかわからず、奥田さんのところにやってきて、それじゃあ、排泄物をどうすればいいのかと尋ねたそうです。

ものすごい笑い話ですが、これこそ日本語の発想と英語の発想の違いを端的に表わしています。上記の英語は、“Do not throw trash into the toilet.”とすべきなのです。

この他にも、田中角栄氏が首相時代に、当時側近だった竹下登氏が田中氏の自宅にやってきた際、入り口で門前払いをくらうということがあったそうです。その時に、竹下氏は家に入れてもらえなかった理由について、「私の不徳のいたすところだ」とコメントしましたが、それをある有名な通訳者が字義通りに“It is due to the lack of virtue on my part.”と訳して、海外メディアから全く理解されなかったという話がありました。

これも日本語の発想と英語の発想の厳然たる違いをはっきりと表わしている例だと思います。

私は交流パーティーで奥田さんとお話させていただきましたが、この竹下氏の発言は結局、どう訳すべきだったのかという話をした時、奥田さんがパーティーで英語ネイティブから聞いた訳文を紹介してくれました。それは、“I came at a bad time. It is my fault.”でした。

さらに、もう一つの例は、「私は世界の人々に貢献したい」を英語でどう訳すのかという話もありました。

日本人なら誰でも、“I want to contribute to the people of the world.”と訳すところですが、これも英語ネイティブには全く発想が通じない英文です。英語ネイティブならこれを、“I want to make a difference in the world.”と訳すという話です。

これらは全て、英語ネイティブの論理と発想に基づいた創訳(transcreation)の例です。セッションの説明の中で、この創訳(transcreation)を実現するのに必要な3つのyとして、Creativity(創造力)、Accuracy(正確さ)、Fluency(流暢さ)が挙げられています。

最後に、JTF翻訳祭に参加して、たくさんの人たちとお話させていただいたことで、元気を含めてたくさんのものをいただきました。本当にありがとうございました。

テーマ : 人生を変えたい!
ジャンル : ビジネス

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プロフィール

平井和也

Author:平井和也
KH翻訳事務所代表。主に人文科学・社会科学分野の日英・英日翻訳を中心にしており、行政翻訳専攻です。好奇心旺盛な本好きです。異文化間コミュニケーション・サポーター。日本翻訳者協会(JAT)会員。海外ニュースライター。

特に政治、経済、国際情勢、行政、ジャーナリズムといった時事的なテーマが得意です。

主な翻訳実績として、東大や一橋大学などの教授の書いた学術文書の英訳、2006年サッカーW杯ドイツ大会の翻訳プロジェクトや防衛省・法務省などの政府系文書、政府高官のパーティースピーチ文書、国際会議関連文書、シンクタンクの報告書・論考、英字新聞『ジャパン・タイムズ』寄稿記事の和訳などの翻訳経験があります。

趣味:読書、語学。

ブログを読んでいただいて、ご意見・ご感想などございましたら、お気軽に以下のアドレスまでメールをいただければと思います。

curiositykh@world.odn.ne.jp

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