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機械にはマネできないアナログ的な翻訳思考

新年が明けて、はやいものでもう今日で15日になります。ちょっと遅くなってしまいましたが、これが今年初めてのブログ更新です。

今回は最近受けた翻訳依頼を通して改めて実感したことについて書きたいと思います。

最近、日本人の学者が書いたある日本語の論文を英語に訳すという仕事をしました。私はこれまでも学術文書の翻訳は数多く経験してきたので、今回の案件も特に珍しいものというわけではなく、今まで手掛けてきたものと性質を同じくするものでした。分量も多いものではなく、英語に訳して6ページ分という文書でした。

私の英訳をチェックしたネイティブ校正者からメールでフィードバックファイルが届き、それをもう一度私がチェックして、内容を適切に英語で表現できているか、ネイティブ校正者の手を加えた箇所は原文の内容を間違って伝えたりしていないかどうか、といったことを再確認しました。

その際、そのネイティブ校正者からメールに原文の内容について私の意見を求めるコメントが付されていました。

それは、原文には同じようなことを繰り返し書いている箇所が見受けられるが、これについてどう思うかというものでした。

私はこのコメントを見た時、特別驚きもなければ、不思議に感じたりすることもなく、英語ネイティブがよく考える内容だといった印象でした。というのも、同じようなことはこれまでにも何度も経験してきたからです。

こういう英語ネイティブの抱く疑問や問題意識の背景には、日本語と英語の論理の違いや、文章を書く時の原則的な発想の違いがあるのです。

つまり、英語では文章を書く際には、論旨の論理的な構築を重視し、one paragraph-one ideaの原則にしたがって論を進めるのが基本とされています。これは、文字通り、一つの段落に一つの内容(メッセージ)を明確に盛り込むという考え方です。

例えば、第一段落ではAについて述べ、第二段落ではBについて書き、第三段落ではCについて書くといったように、各段落で述べようとする内容を明確に分けて表現することで、より論旨のはっきりした文章にするのです。

こういう論理的な議論の展開が明確に表現された文章は、その文章を書いた人が何を訴えようとしているのかが理解しやすく、文章全体の導入部分から始まって、最後の結論に至るまでのプロセスを明確に把握することができる仕組みです。

もちろん、日本語にも段落や起承転結といった概念はあり、必ずしも英語で文章を書く時のような論理的な明確さを担保するものがないわけではありません。が、日本語においては英語ほどその概念が明確に意識されていないと思います。

私はこれまでいろいろな日本語の文書を英訳する仕事を経験してきましたが、その経験から強く感じるのは、日本人の書く文書の多くは同じことの繰り返しが頻繁に見られ、前の段落で言ったことをまた次の段落で繰り返したり、またさらにその先の段落で繰り返したりといった冗長性が目立つという点です。

これは、one paragraph-one ideaの原則という明確な参照基準を持った英語の場合と比べると、著しく異なった性質だと言えると思います。

上記の論文の英訳案件もこの傾向が強く見られるものでした。

結論としては、私はネイティブ校正者の問いかけに次のようにコメントしました。

「同じ内容の繰り返しが多く見られる記述箇所はそれほど重大な問題ではないと思う。もちろん、英語ではそういう記述の仕方は避けるのが普通であり、そういう箇所について改めてリライトしたり、修正を加えたりするのは、文章を明確に読みやすくし、論理的な構造を明確化する上で効果的ではあると思う。が、こういう繰り返し表現は日本人の著者が書いた文章には多く見られるものだし、今回の案件でクライアントはそういう書き換えをしてほしいとは望んでいないだろうと思う。実際のところ、もしそういう箇所に手を加えるとすると、文章の全体の分量が3分の1か、半分にまで減ってしまうかもしれない。(少々ジョークのニュアンスも交えて)」

この私のコメントを読んだネイティブ校正者は、メールの返信の中で、私の考え方に同意するということでした。

このようなことから何が言いたいかというと、翻訳というのは、一般的に誤ってイメージされている傾向がある機械的な言葉の置き換えなどではなく、その文章がどんな類のものなのか、一つ一つの言葉がどんな文脈で使われているのか、その文章を書いた人が翻訳に対して何を望んでいるのか、その翻訳案件がどんな要求内容やビジネス的な要請をともなったものなのか、といった文章を取り巻くありとあらゆる要素を総合的に考慮に入れながら、訳語を選択したり、校正内容について適切な提案をしたりする、極めてアナログ的で緻密な感覚を要求されるものだということです。

今回の案件では、ネイティブ校正者も私の提案に同意し、クライアントがどんなことを望んでいるのか、この案件ではどこまで文書に手を加えるのが適切なのかといったことを理解し、対応することになりました。

私はこの校正者とはこれまでも何度も仕事をしてきており、このネイティブ自身多くの日本人の書いた文章の翻訳をチェックする業務を数多くこなしてきている人なので、そのあたりの事情にはかなり精通している人だろうと思います。だからこそ、そういう要素も考えて、私に意見を求めてきたわけです。

ただ、もし今回のような案件に関して、クライアント側からネイティブ校正者が感じたような繰り返し表現や不適切と思われるスタイルなどについても遠慮なく訂正し、文章を大幅に書き換えるレベルまでしてほしいという明確な要求が事前に出されていたとしたら、文字通り大幅な書き換えとなり、文章は私が冗談で言ったどころではなく、全体のページ数が大幅に減ることになった可能性は高いです。

それほど、英語の論理にしたがって文章を書くのと、日本語の発想で文章を書くのとでは大きな違いがあるということです。

今の世の中には気軽に使える機械翻訳ツールがあったり、ここ数年の間にもiPhoneやAndroidといったスマートフォンで使える翻訳や通訳の機能を備えたアプリが出され話題として取りあげられたりしていますが、上記のような翻訳に必要とされるアナログ的な感性や思考能力について考えると、デジタルツールとの機能差がどれだけ大きく、人間の能力がどれだけ緻密で高度なものかが浮かび上がるのではと思います。

デジタルツールはその名の通り、機械的な作業をこなす機器なのです。

人間には他の動物や機械にはない、「肉感的でリアルな思考脳力」があるのです。
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テーマ : 知っておいて損はない!!
ジャンル : ビジネス

プロフィール

平井和也

Author:平井和也
KH翻訳事務所代表。主に人文科学・社会科学分野の日英・英日翻訳を中心にしており、行政翻訳専攻です。好奇心旺盛な本好きです。異文化間コミュニケーション・サポーター。日本翻訳者協会(JAT)会員。海外ニュースライター。

特に政治、経済、国際情勢、行政、ジャーナリズムといった時事的なテーマが得意です。

主な翻訳実績として、東大や一橋大学などの教授の書いた学術文書の英訳、2006年サッカーW杯ドイツ大会の翻訳プロジェクトや防衛省・法務省などの政府系文書、政府高官のパーティースピーチ文書、国際会議関連文書、シンクタンクの報告書・論考、英字新聞『ジャパン・タイムズ』寄稿記事の和訳などの翻訳経験があります。

趣味:読書、語学。

ブログを読んでいただいて、ご意見・ご感想などございましたら、お気軽に以下のアドレスまでメールをいただければと思います。

curiositykh@world.odn.ne.jp

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