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尖閣ビデオ問題に思う―釈然としなかった想いを言語化する

那覇地方検察庁が9月24日、石垣海上保安部が公務執行妨害の容疑で逮捕した中国人船長を処分保留のまま釈放すると発表し、25日未明に釈放して以来、連日この問題がネット上でもマスコミの報道でも大きく取り上げられている中で、11月5日に「sengoku38」というユーザー名の人物がその衝突映像をYouTubeに公開するというさらにセンセーショナルな展開が起こりました。

これによって、この問題を巡る論争はさらに広がりを見せ、私もツイッターなどで思うことを書きました。

その過程で、改めていろいろと頭の中を整理しなければ、自分の考えが混乱してしまうと感じ、ブログにまとめてみようと思った次第です。

私が衝突映像のYouTube公開というニュースを聞いた時に最初に受けた印象は、その事態は決して良いものではないというものでした。

つまり、その時点で海上保安庁の職員が内部の情報を外部に漏らした可能性が考えられるわけであり、政府機関内部から安全保障や領土に関する情報が漏れるという事態は、国家の情報管理体制のあり方としては、脆弱で危ういという考えが頭に浮かびました。

ただ、話の大前提として、私は、国家としての筋を通して、日本政府が最初の段階で衝突映像を公開すべきだったと思いますし、そうしなかった政府の決定や対応は適切ではなかったと思います。

しかし、政府が情報を公開しないという決定をした以上、それを機密として保持するのが、これもまた政府として当然の責任です。

ところが、それが漏れるという事態を招いたということは、国として非常に大きな欠陥を露呈したわけであり、重要な情報の管理があまりにも杜撰だと言わざるを得ません。

その反面、今回衝突映像をネット上に公開した海保職員に対して、「よくぞやってくれた」という素朴で熱狂的な国民感情が湧き起こるのもよく理解できます。

しかし、私の中にはそれを安易に受け入れることができない釈然としない気持ちもありました。

その釈然としないものが何なのか、しばらくの間自分でもうまく表現することができないモヤモヤした感じを抱えていました。

そういう自分の気持ちを改めて整理してみようと試みた結果、私は大きく分けて三つの観点から今回の事態を考える必要があると思うに至りました。

一つ目は国民感情、二つ目はマスメディアのあり方、そして三つ目に政府の外交姿勢です。

今回の事態は非常にセンセーショナルで政治的な問題であるため、映像を公開した人物に対するナショナリスティックで英雄礼賛的な国民感情が噴出するのはよくわかります。

が、それは私には近視眼的なものの見方に思えたのです。

つまり、政府の情報管理の欠陥や抜け穴といったものが原因となって発生する混乱や問題は今回の話についてだけでなく、他の事案にも起こり得ることだと思うからです。

実際、国民が支払ったはずの年金記録が本人の知らないところで消されていたという重大な問題も起こっているわけであり、こういう事実も含めた上で、今回の政府の情報管理の杜撰さについて考える必要があると思うのです。

今回の衝突ビデオの問題と年金記録問題は、政府の情報管理の杜撰さを露呈したという点では、共通した要素を含んでいると思うのです。

国民は年金記録の情報管理の杜撰さについては怒りを表し、政府の失態を批判しますが、今回の衝突映像漏洩の基になった政府の情報管理の杜撰さについては批判するよりも、むしろ管理の抜け穴を破った人物を称賛し、好意的な意思を表明するという展開です。

もちろん、私も日本国民の一人なので、政府による情報開示という正統な形ではなく、情報漏洩という皮肉な形ではあれ、知る権利が確保されたことによる恩恵を享受することができ、映像を見る機会を得ることができました。

しかし、私は、今回の事態に対する一般的な国民の態度に対して、一面的でご都合主義的であり、想像力がいまいち乏しい側面もあるのではないか、という印象を受けたことは否定できません。

例えば、これはあくまでも仮定の話ですが、もし日本とロシアとの北方領土返還を巡る交渉が進展して、合意に至るまでもう少しといった展開が生まれているような時に、政府の情報管理にミスが生じ、せっかくいいところまで進展していた交渉が頓挫してしまうなんていう事態が起こったとしたら、国民は政府の情報管理の甘さに対して、確実に批判の声を浴びせることだろうと思います。

国家の情報管理とは、年金記録も今回のような安全保障や領土に関する問題も、それ以外の分野も全て含めての総合的な概念であり、そういう観点から考えるべきものだと思うのです。

そういうことを考えた時、私は今回のような国民感情の噴出に対して、手放しで賛同できない危うさや一抹の不安を感じたのです。

ある特定の考え方を支持する論調や空気が出来上がり、それが集中豪雨的に大きな力を持った言説のかたまりになると、その考え方だけが善良なもので、それとは反対の考え方やそれとは違う考え方は異質で排除するのが当然だというような社会的な雰囲気や集団心理が醸成されるのは、危険だと思うのです。

そういう圧倒的な社会的雰囲気が出来上がっている状況の下でこそ、踏みとどまって、もう一度冷静に考えてみることが重要だと思います。

そういう意味で、私は今回の衝突映像漏洩に対する英雄礼賛的な空気に違和感を覚え、ナショナリスティックに反応して、そういう感情に流されてしまうのは危険だという認識があったのです。

先月30日に、私の地元の近くの会場でジャーナリストの櫻井よしこさんの講演会が開催され、その話を聴いてきました。この講演の中で、中国問題に極めて批判的な見解を持つ櫻井さんは、中国が深夜の要請を含めて5回丹羽宇一郎・駐中国大使を呼び出すのであれば、日本はその倍の10回中国の駐日大使を呼び出してやればいいという主張を展開していました。(多少誇張してユーモアのニュアンスも含めていることはわかりますが。)

私はこういう感情論的な意見には賛同しかねます。

非常に勇ましく、国民感情に訴えるものがある意見だとは思いますが、冷静に考えれば、それで実際に事態が良くなるとは考えられないからです。ああ言えばこう言うという感じの感情的な水掛け論であり、痴話喧嘩しているのと同じだと思うのです。

もちろん、櫻井さんはジャーナリストという立場なので、こういう批判を展開するのもあっていいというのはわかりますが、私はもっと建設的な意見を期待していました。

今回噴出した英雄礼賛的な国民感情と海保職員の取った行動を冷静に見つめ直してみる上で、「尖閣ビデオ流出は官僚によるクーデターだ」と題する佐藤優氏の記事が参考になるのではという感じがします。

この記事の中で、佐藤優さんは次のように書いています。

仮に保安官が、尖閣諸島沖中国漁船衝突事件に関する日本政府の処理に不満をもち、思い詰めていたならば、まず上司に「映像を公開すべきだ」という意見具申を行うべきだった。上司が意見具申を却下し、どうしても「義挙」したいならば、海上保安庁に辞表を提出し、一私人の立場として行動すべきだと思う。


ここで展開されている論理は、かなり非現実的な色合いが濃いことはわかります。実際に、自らの意志で政府機関を辞して、一個人として情報を公開できるような胆力のある人はそう多くはないでしょう。

ただ、論理としては正論だと思います。圧倒的な国民感情の奔流に流されずに冷静に考えてみる上でのヒントになると思います。

政府が毅然として映像を公開しなかったことは愚策だったと思いますし、国家としての筋を通して公開すべきだったとは思いますが、内部の職員による暴走行為という“棚ボタ的な”展開を歓迎するのは軽薄な感情論であり、私はその流れには乗ろうとは思わないのです。

次に、二つ目のマスメディアのあり方についてです。

この点についても、佐藤優さんは次のような示唆に富んだ指摘をしています。

マスメディアは、国家の秘密情報を公開した者を徹底的に批判することができない。合法、非合法を問わず、このようなリーク情報なくしてマスメディアが生きていくことはできないからだ。それだから、マスメディア関係者には保安官を擁護しようとする集合的無意識が働く。これが国民の判断を誤らせる。


ここで佐藤優さんが指摘しているマスメディアの心理について考えた時、私の中にあった釈然としないものの正体が一気に明確なものとなっていきました。

それは、つまり、何十年間も記者クラブというぬるま湯に浸かっている日本の大手マスコミ(新聞社、テレビ局、通信社)の偽善的な姿です。

そして、それは「政府と一体化して尖閣ビデオの“犯人探し”に奔走する、矜持なき日本の記者クラブメディアを嗤う」と題するジャーナリストの上杉隆氏の記事を改めて読んだ時、はっきりしたものとなったのです。

この記事の中で、上杉隆さんは次のように書いています。

仮に、メディアが投稿者の行為を完全否定してしまえば、それは自らの仕事をも否定することにつながる。私たちジャーナリストの最低限の役割のひとつは、権力の隠す情報を暴き、それを国民に提供することであり、権力から得られるリーク情報なくして、その仕事は不可能なのだ。

なにより、普段から、テレビ・新聞の記者クラブメディアも「独占スクープ情報」、「独占入手」としながらニュースを発信しているではないか。

つまり、記者クラブメディアは自分たちの場合は「報道」であり、ネットなどの通信メディアの場合は「流出」としたいのであろう。それは単に記者クラブメディアの面子の問題であり、奢りに他ならない。


(中略)

ちなみに筆者自身は、当初から、ビデオをリークしてでも事実を明らかにすべきで、それこそが国民の知る権利にも、国益にも適うという立場を取っている。

繰り返すが、政府が「犯人探し」をするのは一向に構わない。だが、ジャーナリズム側はまったく違う。むしろ逆だ。

メディアは、いまこそ一致団結して、政府権力による情報隠蔽に立ち向かわなければならないし、断固として事実を明らかにするための努力を続けなければならない。

つまり、「sengoku38」が誰であるかを探すよりも、なぜこの1ヵ月もの間、菅政権は「尖閣ビデオ」を隠蔽しなければならなかったのかを追及すべき時なのである。


上記の記述の中の、特に記者クラブメディアが普段は自分たちの報道に対して「独占スクープ情報」、「独占入手」といった表現を使って手柄をアピールしているにもかかわらず、ネットなどの通信メディアの場合は「流出」という表現を使って、論理のすり替えを行っていることについての指摘は、非常に的を射たものであり、私の中にあった釈然としない想いを明確に言語化する大きなヒントとなりました。

また、これはツイッター上で紹介されていた内容ですが、テレビ局は普段自分たちの放送した番組がYouTubeなどのネットメディアに載せられることに対して、著作権の論理を盾にして問題視するけれども、今回のような映像漏洩に関しては、どこの局もYouTube上に公開された映像を当たり前のように放送していました。

さらに、長年にわたって記者クラブという閉鎖的な内部サークルの中で、政府による情報リークという特権を享受してきた大手マスコミが、今回のような映像リークについて云云するのは、調子がいいのも甚だしいという思いもありました。

こういったマスコミの態度に対しても、私はご都合主義的で偽善的なものを感じました。

そして、三つ目の政府の外交姿勢です。

既に書いた通り、これに関して私は、政府は最初から主権国家として中国に対して毅然とした態度で臨み、映像を公開すべきだったと考えています。

政府がビデオの公開を躊躇い、認めなかった理由が何なのか、直前に迫っていたアジア太平洋経済協力会議(APEC)への悪影響を懸念しての中国に対する過剰とも言える配慮があったためなのか?

そういう意味で、上杉隆さんが書いている、メディアが一致団結して、政府権力による情報隠蔽に立ち向かい、なぜこの1ヵ月もの間、菅政権が「尖閣ビデオ」を隠蔽しなければならなかったのかを追及すべき時だ、という主張に大賛成です。

ちなみに、私自身は個人的にこの海上保安官を強く攻めたてたいというような気持ちはありません。

というのも、政府が外交的に適切な対応をしなかったことがきっかけになって、今回のような異例の事態が起こったわけであって、最も批判されるべきは政府の決定だと思うからです。

最後に、今回の尖閣諸島を巡る一連の出来事を通じて、私は領土問題というのがいかに激しいナショナリスティックな感情の沸騰を引き起こすかを思い知らされた感じです。

21世紀に入った今の時代は、極めて高度な文明の利器が発達し、情報の質も量も、世の中を形作っている技術も過去の時代からの進歩によって格段のレベルに達しています。

しかし、そんな時代においても、人間は自国の領土を侵される事態に直面すると、これほどまでに感情を顕にして、相手国に敵対的な批判の矛先を向けます。

こういう事態を目の当たりにすると、日露戦争後の日比谷焼打ち事件や、普仏戦争に負けたフランスが当時のプロイセン(ドイツ)にアルザス・ロレーヌ地方を奪われた時の心境、第一次世界大戦に敗れたドイツがヴェルサイユ条約で莫大な賠償金を負わされた時の屈辱などがどれほど大きなものだったか、どんなに激しいナショナリズムを引き起こすもとになったか、実感として想像できるような感じがします。
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テーマ : 尖閣諸島問題
ジャンル : 政治・経済

プロフィール

平井和也

Author:平井和也
KH翻訳事務所代表。主に人文科学・社会科学分野の日英・英日翻訳を中心にしており、行政翻訳専攻です。好奇心旺盛な本好きです。異文化間コミュニケーション・サポーター。日本翻訳者協会(JAT)会員。海外ニュースライター。

特に政治、経済、国際情勢、行政、ジャーナリズムといった時事的なテーマが得意です。

主な翻訳実績として、東大や一橋大学などの教授の書いた学術文書の英訳、2006年サッカーW杯ドイツ大会の翻訳プロジェクトや防衛省・法務省などの政府系文書、政府高官のパーティースピーチ文書、国際会議関連文書、シンクタンクの報告書・論考、英字新聞『ジャパン・タイムズ』寄稿記事の和訳などの翻訳経験があります。

趣味:読書、語学。

ブログを読んでいただいて、ご意見・ご感想などございましたら、お気軽に以下のアドレスまでメールをいただければと思います。

curiositykh@world.odn.ne.jp

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