スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

米軍のイラク撤退

英国の王立国際問題研究所(Chatham House)のサイトに、外交問題評議会(CFR)の国際問題担当フェローであるレイチェル・シュネラー(Rachel Schneller)女史“Iraq and the American Pullout: Separate We Must”と題する論稿が掲載されているので、今回はその内容をまとめてみました。

Schneller_Jan10_Lg_convert_20100828232524.jpg
レイチェル・シュネラー国際問題担当フェロー

7年間にわたってイラクに駐留していた米軍の撤退が始まるということで、世界的に注目される話題だと思いますので、この論稿を選んでみました。

イスラム教の断食の月ラマダンの最中である8月31日に米軍がイラクから撤退する。撤退をもう一年遅らせれば、米軍のイラク駐留期間はベトナム戦争を超えることになる。

米軍は、莫大な米国民の税金を使ってイラクにおけるプレゼンスを保ってきた。イラク国民の殺し合いとイラク政府の瓦解を防ぐことができるのは米軍兵士しかいないと主張して、イラク中毒症を正当化してきた。

イラク側の多くの政治家たちも、占領政策の終結を望みながらも米軍に大きく依存しており、不健全な相互依存関係が出来ている状況である。

今後イラク情勢は悪化するだろう。宗派間争いによる新たな流血の事態やアラブ人とクルド人の争い、イラクの治安部隊の能力不足を理由に、米国とイラクの安全保障協定の見直しを求め、米軍の駐留延長を主張する向きもある。

暴力と混乱が激化する危険性が大きいが、いつまでも米軍の駐留を続けていても、現地の根深い問題の解決にほとんど影響を及ぼすことはないだろう。逆に、米軍が駐留し続けることで、イラク国民が自ら問題解決に取り組む意欲を削ぐことになる。

米軍が撤退すると、指導者ムクタダ・サドル師率いるイラクのシーア派最大の反米勢力は、現地の電力問題の解決とアラブ諸国との関係改善に取り組むことができなければ、格好の敵がいなくなり、存在意義を失うことになる。

アラウィ元首相率いるイラク国民運動(イラキヤ)は3月7日の連邦議会選挙でわずかな差で勝利したが、他の主要政党と連立を組むことができなかった。スンニー派のアラブ諸国を頻繁に訪問していることで、シーア派との関係も悪化している。

マリキ氏率いる法治国家連合(SLC)とイラク国民同盟の統一会派結成の試みも、誰が連立の指導者になるのかという基本的な問題でつまずき頓挫した。

8月31日までに新政権が発足した場合、クルド人、スンニー派、シーア派の少なくとも一つの勢力は排除される可能性がある。

2005年の議会選挙の時と同様に、全政党が連立し、脱バース党化と、アラブ人とクルド人らが帰属を争う北部キルクーク州の問題について妥協を強いるような挙国一致政府が樹立される見通しはない。

たとえ挙国一致政府が樹立されても、それを望まない勢力が4年間政権内で小競り合いを繰り返すだけだろう。

米軍が撤退するといっても、完全に駐留をやめるわけではない。現地に残る5万人の支援部隊と1,300人の民間人及び外交官が、イラクの電力問題の解決と憲法改革を進めることになる。

電力不足問題の解決がイラク情勢安定化の最大のポイントであり、それによってビジネスや雇用環境が改善される。電気が使えるようになれば、投資が生まれ、石油やガスを使う分野が拡大し、ワクチンや食べ物の冷蔵が可能となり、学校が機能するようになる。

イラクの法制度改革は急務であり、しっかりとした法律や裁判制度、憲法がなければ、人々は暴力に訴えることになるだろう。

しかし、米軍は責任を持って撤退すべきだ。米国が撤退に対する責任を無視したら、イラクの人権状況に大きな影響を与えることになる。

イラクのキャンプ・アシュラフに居住するイランの急進派反体制組織であるムジャヒディン・ハルク(MEK)が問題だ。

この勢力はサダム・フセイン時代にイラクのシーア派とクルド人に対する抑圧を支援していたため、イラク政府とは敵対関係にある。米軍の撤退で、イラン、イラク双方の報復合戦が始まり、混乱を極める可能性がある。

MEKは1979年のテヘランの米国大使館占拠事件にも関与しており、そのメンバーは米国への定住を許されていない。MEKのメンバーは国連を通した公正な裁判を受けるべきである。

さらに大きな問題は、イスラム教スンニー派組織である覚醒評議会(Sahwa)のメンバーである。

彼らはスンニー派の反政府グループで、2003年から2004年に米国と敵対していたが、その後2005年から2008年には立場を替え、米国のアルカイダ討伐作戦に協力したのだった。

アルカイダはその米国に寝返ったメンバーを攻撃の標的として狙っており、シーア派民兵組織は米国に協力した彼らを軽蔑し、シーア派政府はかつての反政府勢力を警察にも治安部隊にも関わらせるつもりはない。

MEKと同様、Sahwaの反政府勢力も米国への定住を許されていないが、彼らの支援がなければ、米軍はイラクでほぼ敗北していただろうと考えられるだけに、彼らとの協定に調印した以上、残りのメンバーをアルカイダやシーア派民兵組織から守ることで協定の目的を果たすべきである。

米軍の撤退にともない、何千人というイラク人が失職する。彼らには、米国人に協力したことを理由に殺されるかもしれない危険があるが、もう治安部隊が守ってくれることはない。

そのため、米国への移住を希望する人に対しては、迅速かつ効率的に難民支援プログラムを受けることができるようにするための体制を整え、イラクに留まることを希望する人に関しては、定住地を分離し身の安全を保証する特別措置を講じるべきである。

NHK解説委員室のサイトに掲載されている時論公論「米軍撤退 イラクの今後」と題する記事から、参考になる資料をアップしておきます。

j100820_02-thumb-350xauto-78682.jpg

j100820_10-thumb-350x196-78680-thumb-350xauto-78681.jpg

j100820_01-thumb-350xauto-78693.jpg
スポンサーサイト

テーマ : 国際政治
ジャンル : 政治・経済

プロフィール

平井和也

Author:平井和也
KH翻訳事務所代表。主に人文科学・社会科学分野の日英・英日翻訳を中心にしており、行政翻訳専攻です。好奇心旺盛な本好きです。異文化間コミュニケーション・サポーター。日本翻訳者協会(JAT)会員。海外ニュースライター。

特に政治、経済、国際情勢、行政、ジャーナリズムといった時事的なテーマが得意です。

主な翻訳実績として、東大や一橋大学などの教授の書いた学術文書の英訳、2006年サッカーW杯ドイツ大会の翻訳プロジェクトや防衛省・法務省などの政府系文書、政府高官のパーティースピーチ文書、国際会議関連文書、シンクタンクの報告書・論考、英字新聞『ジャパン・タイムズ』寄稿記事の和訳などの翻訳経験があります。

趣味:読書、語学。

ブログを読んでいただいて、ご意見・ご感想などございましたら、お気軽に以下のアドレスまでメールをいただければと思います。

curiositykh@world.odn.ne.jp

最新記事
カテゴリ
リンク
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

アンティークな懐中時計
今日の時事英語
ブクログ
ブクログ
検索フォーム
RSSリンクの表示
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。
キーワード出現頻度解析ツール
検索の仕組み | 上位表示の方法 | 無料SEOツール | 最新SEO情報
人気ブログランキングへ ブログランキング・にほんブログ村へ ドキュメントルートとは blogram投票ボタン